2018年1月5日金曜日

ケヴィン・ケリー著、服部桂訳 (2016) 『<インターネット>の次に来るもの 未来を決める12の法則』 NHK出版


雑誌Wiredの初代編集長であるケヴィン・ケリー氏の近刊についてまとめました。私は翻訳書を読んだだけで原著をチェックしていませんが、この翻訳は非常に読みやすく、読者の一人として大変ありがたく読みました。

私は20年前にホームページを始めた頃、情報革命で時代が大きく変わっていることを痛感していたつもりでしたが、情報革命ということばから新鮮さが失われた今頃になって、この革命の大きさを再び痛感しています。革命期に重要なのは、考え方を根底的に変えることです。その困難なことを少しでも行うために、このお勉強ノート(プラス私の駄言(⇒印))を作成しました。



 


この本は現在の大きな流れを12の法則にまとめて解説していますが、翻訳書はその流れをすべてカタカナで表記しています(もっとも、前書きに訳者なりの訳語は書かれていますが)。私個人は、「翻訳においてはできるだけカタカナ語を排すべき」「英語の知識を前提とした日本語訳は翻訳としては不十分」といった信条をもっていますが、これほどに世の中の流れが早いと、この翻訳書のように(あるいは落合陽一先生のように)カタカナ語を多用することも仕方がないのかなとも思えてきます。ある程度の知識を得るための日本語使用には、英語の知識が前提とされている時代に入ってきたのかもしれません。改めて日本の言語教育について考えなければと思います。

参考記事
水村美苗『日本語が亡びるとき ―英語の世紀の中で』筑摩書房
http://yanaseyosuke.blogspot.com/2010/08/2008_16.html
橋本治(2010)『言文一致体の誕生』朝日新聞出版
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2010/09/2010.html
福島直恭(2008)『書記言語としての「日本語」の誕生 ―その存在を問い直す』笠間書院
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2010/08/2008.html


ともあれ、以下は私なりのまとめ(と駄言)です。12の法則は、私なりに漢字に翻訳してみました。


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1 過程化 (Becoming)

 今や製品は(たとえばデジカメでも)、買ったら終わりではなく、買った後もアップデートが続き、製品は過程化している。変化は止まらないので、変化していることが当たり前となる。

 インターネットも創造されてから8000日程度だが日々変化し、私たちはその変化になかなか気づかなくなってしまっている。しかし20年前のインターネットと現在のインターネットは別物と言っていいぐらいである。しかしこの変化の多くは、コンテンツの運営会社というよりも利用者がさまざまな入力をしたからだ。2050年の人間が今の状況を見たら、現在は可能性のフロンティアが広がっている時代に思えるだろう。

⇒「変化し続けることが常態」という前提を受け入れ、なおかつ変化に対して鋭敏であることが必要だとしたら、学校教育はそういった考え方と感性を教えているのだろうか。むしろ抑圧していないだろうか?


2 頭脳化 (Cognifying)

 私たちが気づかないうちに、さまざまなAIが製品やサービスに組み込まれて、それらの作動を改善している。今後は「XにAI機能をつける」という形でいくらでも事業計画が立てられるだろう。

 グーグルも、当初から「検索エンジンを作る」というより「AIを作る」ことを目指していた。グーグルはAIを使って検索機能を改良しているのではなく、検索機能を使ってAIを改良している。あらゆるものの頭脳化は、クラウド・コンピューティングによって強化される。クラウド・コンピューティングはネットワーク効果(収穫逓増の法則)に従う。

 AIはますます強力になるだろうが、それらのAIの99%は、特定機能だけをこなす「弱いAI」であり、自意識をもつような「強いAI」はほとんど作られないだろう(むしろ私たちは進化するAIに自意識が生じないように設計するべきなのかもしれない)。AIが人間とは異なる思考をすることは短所でなく長所であるととらえるべきだ。AIということばは、Alien Intelligenceの略号となるかもしれない。AIによって私たちは「人間とは何か」という洞察を深めることができる。

 これからの仕事を、私たちとロボットの関係から分類すると次の4つに分けられる。

(1) 人間ができるが、ロボットの方が上手にできる仕事
(2) 人間にはできないが、ロボットができる仕事
(3) 我々が想像もしなかった仕事
(4) まずは、人間にしかできない仕事

 私たちはロボットと競争するのではなく、ロボットと協調して働くことが求められる。

⇒「外国語学習にAI機能をつける」とはどういうことだろう。スマホでもできるDuolingoのアプリぐらいしか今のところ思い浮かばない自分の想像力の貧困さが嘆かわしい。

上の四種類を教師の仕事でいうなら、(1)として採点業務が、(4)として個々の学習者に寄り添うことがすぐに思い浮かぶが、(1)をすぐにスタートさせることもできず、かといって(4)に大きな自信をもっているわけでもない。想像力を働かせ、自分の人間らしさを開拓しなければと思わざるを得ない。


3 流動化 (Flowing)

 インターネットは、データを瞬時に複製し世界的に流通させることができる。私たちは今、コンピュータ化の第三段階にいる。

(1) 古いメディアの模倣をする段階(例、「デスクトップ」「フォルダー」「ファイル」)
(2) ウェブの原理での体系化が始める段階(例、ファイルはページとなり、ページはフォルダーでなくウェブに並べられる)
(3) 流れとストリーミングが主流になる段階(例、瞬時の反応や決済。多くをリアルタイムで処理)

 この流動化の傾向が強まるにつれ、コピーできないもの(例、信用)の価値が高まり、データは他のデータとリンクされ協働的な生成の流れに乗ることが重要になった。

⇒私はホームページ・ブログを始めて20年になるが、まだ十分に流動化の波に乗れていない(というより、英語圏の潮流には入り込めてすらいない)。もっと自分の活動を流動化して、折々にその流れの勢いを論文という形に結晶化しなければと思う。


4 投映化 (Screening) 

 グーテンベルグの印刷革命は世界を変えたが、今や私たちは50億を超えるデジタルスクリーンが世界を変える過程の中にいる。デジタルスクリーンではことばと画像・音声が徐々に融合している。また「本」も完成・完結したものから、編集されタグ・リンク付けされシェアされ書き足されたりする(ウィキペディアのことを考えてみよう)。言い換えれば、デジタルスクリーンへの投映化へと移行するにつれ、本も過程化・頭脳化・流動化する。科学でも同じことが起こっている。

 またデジタルスクリーンは私たちに見られるだけではなく、私たちを見ることもできる。私たちの行動を観察して即時にそれに対応することもできる。このことによってさらに革命的な変化がもたらされるだろう。

⇒この点、学校教育の中心媒体が印刷本と黒板というのはいかにも時代遅れだと思う。と言う私とて、板書をパワポで投映しその形で学生に配布し、学生からの感想をBb9に書かせているぐらいだから、私のコンピュータ化もまだ「古いメディアの模倣をする段階」にすぎない。もっとコンピュータ化を進めなければ。


5 共有資産化 (Accessing)

 ウーバーは一台も車を所有せず、フェイスブックは一つもコンテントを作っていない。エアビーアンドビー (Airbnb https://www.airbnb.com/) は一軒も不動産を所有していない。だがこれらの企業は、資産を共有資産に変えて、それにアクセスするプラットフォーム(制度基盤)を作り上げて繁栄している。私たちの行動様式が「所有権の購入」から「アクセス権の定額利用 (subsription)」へと転換している。

 プラットフォームは、組織と市場に続く、人間の仕事を体系化する第三の方法である。プラットフォームは組織よりも自由で、市場よりも制限されている。プラットフォームの制度基盤の上に参加する人や組織は、互いに一種のエコシステムを作り競争と協調が混じり合った形で共存共栄している。プラットフォームを提供する会社はAPIを公開し多くの人や組織を自分のプラットフォームに招いている。

⇒下のサイトは、小規模のプラットフォームを作ったつもりだったが、まだ十分に機能してはいないし、もっともっと作業を効率化できるはずだ。

広大教英生がお薦めする英語動画集
http://kyoeivideoselection.blogspot.jp/
広大教英生がお薦めするGraded Readers
http://kyoeigradedreadersselection.blogspot.jp/

 また、自分としてはSNSのプラットフォームをうまく使いこなしたいが、Twitterもまだうまく使いこなせていないし、Facebookはどうも好きになれずほぼ放置している。LinkdInやACADEMIAも放置したままだ。このブログは、少しは知的資産の共有化に貢献しているかもしれないが、ブログ内の検索精度が悪く自分でも使い勝手を改善したいと考えている。


6 共有社会化 (Sharing)

  現在、世界にはデジタル版の社会主義のようなものが発生し始めているのかもしれない。これは中央集権主義で統制経済を行ったソビエト型の社会主義とはまったく異なり、国境のないインターネットの上で分散的なネットワークを形成している。ブログやYouTubeやSNSを見ても、コンテンツの作成者はそれを無償で提供しそれが共有されることを臨んでいる。またクラウドファンディングに参加する者は創造的な人を育てるために協働している。

 こうしたテクノロジーによる共有は、分散した人々の協調という新しい政治のOSなのかもしれない。編集者やキュレーターに相当する媒介・介入があれば、大衆の創造力はすばらしいものを生み出し、それは共有されるだろう。

⇒「社会主義」ということばにはアレルギーをもつ人も多いかもしれないが、私たちがますます「社会」(つまりは異なる人々のつながり)の力を実感しているのは事実だろう。もちろん悲観論を述べるなら、私たちはますます同好の士とばかりつながることを求めてエコー・チェンバー効果にやられていることになるが。



7 自動選別化 (Filtering)

 莫大な量の情報は、うまくフィルターで選別されないととても人間には処理できなくなる(Herbert Simon "a wealth of information creates a poverty of attention and a need to allocate that attention efficiently among the overabundance of information sources that might consume it")。フィルタリング(自動選別)システムは頭脳化され、共有資産・共有社会化され、流動化されて永遠の過程となるだろう。そのシステムはどんどん洗練され、うまく工夫すればフィルターバブルの悪影響からも逃れられるかもしれない。

⇒フィルタリングシステムとして以前はRSSを使っていたが、今はそれがTwitter(のList機能)になっている。しかし肝心の自分の専門の分野については、出版社からのメールぐらいで、後は昔ながらの口コミぐらいである。これも改善しなければ。


8 再編創造化 (Remixing)

 リミックスとは何も新しい現象ではなく、私たちはこれまでも古いものを組み合わせては新しいものを作ってきた。デジタルテクノロジーは、古いデータを再編し新たなものを創造することを飛躍的に容易にした。映像文化の中心にいるのは、もはやハリウッドのプロデューサーというよりは、世界各地に分散しているYouTubeへの投稿者であろう。その製作時技術は日々進化している。

⇒極端なことをいえば、論文を書く時もこのリミックスが重要。この過程を機械化して効率をあげないととても論文が書けないような気がする。これは早めに行動に移そう。


9 相互作用化 (Interacting)

   機械と人間の相互作用は、ますます洗練され多感覚的になる。VR (Virtual Reality) の精度は現時点でも相当に高い(William Gibsonの "The future is already here — it's just not very evenly distributed." ということばは、1990年に彼が20を超えるVRのデモを徹夜で見た翌朝に語られた)。また、現実世界に映像を投影するAR (Augmented Reality) も日々進展している。やがて機械と人間の相互作用は、コンピュータを脳に直接つなぐことにいたるだろう。

 VRは、パソコン、モバイルに並ぶ破壊的変化を起こすプラットフォームとなるかもしれない。

⇒VRについては私の理解・経験は完全に欠落している。今後注目しなくては。


10 自動記録化 (Tracking)

  自分のあらゆるデータを自動的に測定し記録し続けるセルフ・トラッキングのシステムは、被験者一人 (N=1) の実験といえるかもしれないが、それは自分という固有の人間にとっては貴重なデータ (quantified self) となる。このデータがフィードバックされれば、自分の身体は以前なら感じることができなかった感覚を感じることを学ぶことができるかもしれない。

⇒iPhone/iPadの環境だと、興味あるサイトはすぐにEvernoteに入れられるが、デスクトップPCだとそれが少し(数秒)の手間がかかり、その手間のせいで記録を怠り、後で悔やむことが多々ある。せめて自分の知的関心に関するデータは半自動的に記録できるようなシステムを作っておきたい。


11 発問化 (Questioning)

  インターネットとAIによって質問の答えを得るコストが劇的に下がった今では、答えを得るよりも良い質問を発することの方が大切になってくる (Pabro Picaso "Computers are useless. They can only give you answers.")。すぐに答えが出ずに、新しい思考やイノベーション、ひいてはさらなる発問を生み出す発問をすることを私たちは学ぶべきだ(それはひょっとしたら機械が最後までできないことかもしれない)。

⇒これに関してはまったくその通り。学校教育はここに力を入れなければならないが、試験制度改革を見ているとその方向を目指しているとはとても思えない。


12 新生化 (Beginning)

 後世の歴史家からすれば、現在は、人類が初めて互いにリンクし一つの大きなものとなった時代の始まりと思えるかもしれない。私たちはそのつながりに頭脳化した物体も加え、そのつながりを一つの超知能にしている。これは地球史上もっとも驚くべき出来事なのかもしれない(ケリー氏はこのつながりを「ホロス (holos)」と呼んでいる)。

 ホロスは、おそらく人類を支配するような「強いシンギュラリティー」とはならず、人間と機械が複雑に相互依存するシステムとなるだろう。

⇒この歴史観は妄想といえば妄想といえるかもしれないが、私はこのような大局観は重要だと思う。少なくとも自分がいる時代を遠くから眺める想像力は大切にしたい。





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