2018年1月4日木曜日

松尾豊 (2015) 『人工知能は人間を超えるか』、松尾豊・塩野誠 (2016) 『人工知能はなぜ未来を変えるのか』



これからの教育を考える上で、人工知能との共存という視点は欠かせないと考えますので、まったくの素人レベルで人工知能について少しずつ勉強しています。この記事は松尾豊先生の入門書を読んで作ったお勉強ノートの一つです。文系の悲しさで、肝心のディープラーニングについての理解が不十分で、初歩的あるいは派生的な話題について少しまとめただけです。それでも、私の誤解も入っていると思いますので、ご興味をもった方は必ず原著をご参照ください。

■印は私なりのまとめ、⇒印は私の蛇足です。なお、私は両書ともにKindle版で読みましたので、以下にはKindle版の位置番号を書いています。


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■ 3つのAIブーム (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.44とNo.633とNo.960)

第一次ブーム(1956-1960年代):推論・探索で特定問題を解く。しかし、いわゆる「トイ・プロブレム」しか解けない。
第二次ブーム(1980年代):コンピュータに「知識」を入れる(エキスパートシステム)。しかし人間からの知識抽出が大変だし、知識の数が増えると相互矛盾が生じるなどの問題が起きた。
第三次ブーム(現在):ビッグデータとディープラーニング(「特徴表現学習」)。「ライトウィエイト・オントロジー」でコンピュータにデータから自動で概念間の関係性を見つけさせる(例、IBMのワトソン)。

⇒現在、AIがブームになっている背景要因の一つは、ウェブでビッグデータが集まったこと。私の身近な経験でいっても、SpotifyGoodreadsのお薦め機能は非常に適確だったが、それには多くの人々の嗜好データが入っているから。そのビッグデータを活用できるようになったのはディープラーニングという方法が開発されたため。



■ 科学的前提 (『人工知能は人間を超えるか』  Kindle の位置No.450)
「人間の知能は、 原理的にはすべてコンピュータで実現できるはず」

⇒多くのコンピュータ科学者は、この前提で仕事を続けている。ただ、シンギュラリティといった「強いAI」がすぐに到来すると考える人は、実際に人工知能開発に携わっている科学者・エンジニアには多くない模様(もちろん専門家というのは大きく誤りうるものだが・・・)。


■ 人工知能の4つのレベル (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.530-No.553)
レベル1: 人工知能と呼ばなくてもよい制御プログラム。制御工学やシステム工学で実現。
レベル2: 古典的な人工知能。推論・探索や知識ベースで入力と出力を関連づける。
レベル3: 機械学習を取り入れた人工知能。パターン認識をベースにビッグデータで進化。
レベル4: ディープラーニング(「特徴表現学習」)を取り入れた人工知能。機械が特徴量自体を学習する。

⇒レベル3から4への発展は、私のような素人にはピンとこないが、専門家にとっては衝撃的なこと(その認識の差を少しでも埋めるため、私はこのように恥ずかしいお勉強ノートを作っています)。


■ 「特徴量」とは (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.772)
特徴量とは「データの中のどこに注目するか」ということであり、それによってプログラムの挙動が変化する。

⇒この「特徴量」が重要概念の一つ。特徴量を設計する科学を「フィーチャーエンジニアリング」と呼ぶが、日本語訳には「素性工学」、「特徴量工学」、「素性設計」があるが、松尾先生は「特徴量設計」という訳語を選んでいる。(『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置1407-1408)。以下のインタビューとスライドも参照のこと。

松尾豊:人工知能テクノロジーの現状と可能性
https://www.worksight.jp/issues/607.html
松尾豊:人工知能は人間を超えるか(スライド)
https://www.ipa.go.jp/files/000048577.pdf


■ これまでの機械学習の難点 (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.1333-No.1349)
どんな特徴量を入れるかという「特徴量設計」 (feature engineering) は、人間が考えて行うしかなかった。

⇒下のWikipedia解説も参考のこと
Wikipedia: feature engineering
https://en.wikipedia.org/wiki/Feature_engineering


■ ディープラーニングとは (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.1442-No.1773)
ディープラーニングとは、機械が自ら特徴量をつくり出す機械学習であり、多階層のニューラルネットワークで実現される。

⇒ディープラーニングについては、松尾先生の本を読んで私なりにまとめを作りましたが、そのようにあやふやな理解を書くよりも、下の動画解説を見た方がはるかによいので、動画を埋め込んでいます(英語ができる人なら、『人工知能は人間を超えるか』を読めばこの動画のあらましは理解できるはずです)。


But what *is* a Neural Network? | Chapter 1, deep learning



■ 人間の仕事 1 (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.2317-2330)
人工知能が発展する中で、人間の仕事として重要なものとして残るのは、「大局的でサンプル数の少ない難しい判断」と「人間に接するインターフェース」、および「人間と機械の協調」であると考えられる。

⇒これらのうち、多くの人が選べる仕事は「人間に接するインターフェース」として働くことだろう。だが、もちろん人間と機械の間のインターフェースであるので、機械の考え方を理解し「人間と機械の協調」を志向しなければならない。全員がプログラマーになるわけでもないのに、プログラミング教育 ("Learn to code") が推奨される理由の一つはここにあるだろう。


■ 人間の仕事 2 (『人工知能はなぜ未来を変えるのか』 Kindle の位置No.2663-2665)
定型的な問題の解決は機械に任せるにせよ、ある問題には答えが出るのか出ないかを調べるとか、答えが出ない時にどう対処するかとか、答えがある問題にどう変えるかといったところもこれから大切になるだろう。

⇒これは相当に高度な知性だが、今後の教育はそういった知性の涵養を目指さねばならないだろう。


■ 人間が得意なこと (『人工知能はなぜ未来を変えるのか』 Kindle の位置No.666-708)
人間は、生物として少ないデータからいかに人より早くパターンを見つけるかという競争をやっている。また、人間は目的に応じて判断の基準を変えている。自分の興味に基づいて生き物的な関心に基づいて順位をつけているとも言える。

⇒ "How much you learn"に関して人間は機械に敵うわけもないが、"How fast you learn"なら勝負できるかもしれない(素人的妄想)。ちなみに、"How fast you learn"ということの前提は"How fast you unlearn"ということ。いわば自分の古いOSを捨てて、アップデートする、あるいは新しいOSをインストールするようなことがますます重要になってくるのだろうか。


■ 人間の癖 (『人工知能はなぜ未来を変えるのか』 Kindle の位置No.835-906)
人間は、相関関係よりも因果関係で物事を捉えようとする。人間は言語的に何らかの理由をつけてストーリを作って納得しがち。

⇒これはよく知られた人間の特性。私たちは下手をすると相関関係ですら因果関係として解釈しがち。


■ ストーリーを作るとは (『人工知能はなぜ未来を変えるのか』 Kindle の位置No.986-993)
機械学習的に言うなら、ストーリーを作ることは、別のドメイン(領域)の知識を持ち込むこと。転移(トランスファー)によって、学習速度を高める技術とも言える。

⇒「ストーリー」とは、部分的情報から抽象化された素材と筋書きの相互作用のパターンだが、機械はまずこの抽象化が不得手。さらに、ある現在進行中の事象に対して、別の分野でのストーリーをもちこんで、それなりにうまく予測を立てることは機械はもっと不得手。


■ ストーリーによる学習 (『人工知能はなぜ未来を変えるのか』 Kindle の位置No.2702-2706)
人間は、幼い頃から聞き語りや本や映画などで多くのストーリーに接しているがそうした経験を転移させることによって、今・ここという特異な状況の理解を効果的に行っている。この人間的な力は今後とも伸ばすべきだろう。

⇒安直な言い方だけれどこういった「人間的な知恵」「人文的な素養」について、物語論を勉強することによって理解を深めたいというのが私の現在の目標の一つ。

関連記事:J. Bruner (1986) Actual Minds, Possible Worlds の第二章 Two modes of thoughtのまとめと抄訳
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2017/10/j-bruner-1986-actual-minds-possible.html


■ 人間の言語 (『人工知能はなぜ未来を変えるのか』 Kindle の位置No.2680-2681)
人間の言語は、一単語に多くの意味が入っており、話し手のニューロンの発火の状態を、5-10分程度の時間である程度、聞き手に伝えることができる。機械の観点からすればこれは相当すごいことである。

⇒ルーマンの用語を借りるなら、「現実性」に「可能性」が統合されてこその意味。人間の意味には可能性があるからこそ、上のような離れ業ができる。しかし、現在では意味の可能性の側面がどんどんないがしろにされている。

関連記事:意識の統合情報理論からの基礎的意味理論--英語教育における意味の矮小化に抗して--全国英語教育学会での投映スライドと印刷配布資料
http://yanaseyosuke.blogspot.jp/2017/08/blog-post_9.html


■ 大局的予測 (『人工知能はなぜ未来を変えるのか』 Kindle の位置No.1072-1080)
数年単位の動き(例、中国の動向)は、原理的に数十年でもサンプルが10回しか取れないから、他の事象からの転移による予測が有効。こういったサンプル数が少ない中のストーリー予測は人間の方が得意

⇒ただし言うまでもなく、このような大局観を得るのは相当に困難。しかし、だからこそ得る価値があるのであり、教育も短期間で獲得・測定できる項目の教え込みばかりでなく、このように長期的に培うしかない知恵の習得を目指すべきではないのか。


■ 「意識」とは (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.591)
機械が特徴量を生成する段階で、自分自身の状態を再帰的に認識し、機械が考えていることを機械自体がわかっている「入れ子構造」が無限に続く場合に、そこには「意識」と呼んでよい状態が出現するのではないか。

⇒「意識」については私が個人的に興味をもっているのでここに短くまとめた。


■ 意識の存在理由 (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.1403-1407)
自己意識の存在理由は、人工知能に世界をシミュレートする装置を入れることで説明できる。人工知能が何かを行おうとする際は、世界のモデルを自己の中にもつ方がよいが、この世界のモデルの中には自己という存在が要請される。この自己の中の自己を観察することが自己意識となる。

⇒この考え方はJulian Jaynesの考え方と似ている。
関連記事:Consciousness according to Julian Jaynes
http://yosukeyanase.blogspot.com/2010/03/consciousness-according-to-julian.html


■ 記憶とは (『人工知能は人間を超えるか』 Kindle の位置No.1546)
記憶とは、何らかの実体を引き出しの中から取り出すような単純な話ではなく、膨大な情報から何を抜き出すかを決める特徴量を抽出することだと考えられる。ゆえに、特徴量の異なる人からは違う記憶が生み出されるのではないか。

⇒これも個人的興味でのまとめ。「意識」も「記憶」も松尾先生にとっては派生的なテーマであると私は理解している。




 






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